親父の実家は、自宅から車で2時間ちょっとのところにある。
実家は農家で、何かそういった雰囲気が好きで、
高校生になってバイクに乗るようになると、
夏休みなんかにはよく一人で遊びに行くようになっていた。
しかし、高校3年生になる直前くらいから、
行かなくなってしまった。
「行かなかった」
というよりも、
「行けなくなった」
というべきか、それにはこんな訳があった。
ある春休みのこと。
いい天気に誘われて祖父母の家にバイクで行った。
まだ寒かったが、縁側はぽかぽかと気持ちよく、
そこでしばらく寛いでいた。
その時
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、」
と謎の音が聞こえてきた。
機械的な音でもなく、人が発してるような感じでもない。
濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような音だった。
何の音だろうと見渡すと、石垣の上に帽子があるのがみえた。
その帽子は、横にに動き、垣根の切れ目まで来ると、
どうやら女性が被っていたようだった。
その女性は、白いワンピースを着ているようにみえた。
だが、石垣の高さは2メートルほどある。
この高さで帽子が見えるのは、どれだけ背が高い女なんだよ。と思った。
そうしているうちに、女性は視界から消えていった。
その後、居間にいるおじいさんとおばあさんにその話をした。
「さっき、大きな女を見たんだよ。女装した男かな?」
と言っても
「へぇ〜。」
という反応しか返ってこなかった。
そして
「石垣よりも背が高かったよ。
帽子を被ってて「ぼ、ぼ、ぼ」って言ってたし。」
その後、
「いつ見た?」
「どこで見た?」
「石垣よりどのくらい高かった?」
と、じいさんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。
戸惑いながらそれに答えると、
じいさんは急に黙り込んでしまい、
どこかに電話をかけはじめた。
電話が終わるとじいさんは
「今日は泊まっていけ。今日帰す訳にはいかなくなった」
と言った。
そして、じいさんは
「ばあさん後は頼む。俺はKさんを連れてくる」
と言って軽トラックでどこかに出かけた。
何事かとばあさんに恐る恐る聞くと、
「八尺様に魅入られてしまったんだよ。
じいさんが何とかしてくれるから何も心配しなくていいから。」
と震えた声で言われた。
それからばあさんはぽつりぽつり八尺様の話をしてくれてた。
この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。
人によっては若い女だったり、
老婆だったりと見え方が様々だが、
共通しているのは女性で名前の通り、
八尺ほどの背丈があり、
「ぼぼぼ」
と男のような声で変な笑い方をするという。
この地区に地蔵により封印されていて、
よそへ行くことは無い。
しかし八尺様に魅入られてると、
数日でとり殺されてしまう。
最後に八尺様の被害が出たのは15年程前だった。
そしてじいさんは、Kという老婆を連れてきた。
「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい。」
と、Kさんはお札をくれた。
その後、じいさんと一緒に2階へ上がり、何かしていたようだ。
それまでばあさんは一緒にいてくれて、
トイレに行く時も付いてきてトイレのドアを
完全に閉めさせてくれなかった。
その時はじめて
「やばい!なにか、やばい!!」
と思うようになった。
しばらくすると2階の部屋に連れて行かれた。
そこには祭壇があり、仏像が置かれていた。
窓はすべて新聞紙で塞がれて、お札が貼られており、
部屋の四隅には盛り塩が置かれていた。
あと部屋の隅に「おまる」が2つ用意されていた。
これで用を済ませということらしい。
じいさんは最後にこういった。
「もうすぐ日が暮れる。いいか?絶対に明日の朝までここから出てはいかん。
俺もばあさんもな、お前を呼ぶことはないし、話しかけることもない。
明日の朝7時になるまでは絶対にここから出るな。
7時になったらお前から出ろ。家には連絡しておく。お札も絶対に手放すな。」
と、じいさんが真顔で言うものだから、
黙って頷くしかなかった。
「今言われたことはよく守りなさい。
お札も肌身離さずな。何か起きたら仏様の前でお願いしなさい」
とKさんにも言われた。
その後、部屋に入り怖いながらも過ごしていた。
テレビは見てもいいと言われていたが、
見ても気が紛れない。
ばあさんが用意してくれたおにぎりやお菓子も食べずに
布団に包まっていた。
そんな中いつの間にか眠ってしまい、
目が覚めた時にテレビは深夜番組が映っていて、
時計をみたら午前1時を過ぎていた。
なんか嫌な時間に起きたなと思っていると。
窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。
小石ではなく、手で軽く叩くようなそんな音が。
必死で風のせいだ、風のせいだ、と思い込もうとした。
そんな時、じいさんから声が聞こえた。
「おーい。大丈夫か?怖けりゃ無理せんでええぞ。」
「どうした。こっちにきてもええぞ」
と。思わずドアに近づいた。
開けようとしたその時に気付いた。
じいさんの声に似ているけど、じいさんの声じゃない。
分からないけど、そんな気がした。
そう思った瞬間全身に鳥肌が立った。
ふと、四隅の盛り塩が目に入る。
塩の上の方が黒く変色している。
すぐに仏壇の前でお札を握り締め
「助けてください。助けてください。」
と必死に祈った。
その時、
「ぼぼっ・・ぼ・・ぼ・・」
あの声が聞こえ、窓がトントン鳴り出した。
そうして、とてつもなく長く感じる夜は過ぎ、
気づいたら、朝になっていた。
いつの間にか気絶か寝てしまったようだ。
付けっぱなしのテレビは朝のニュースをやっていた。
表示されていた時間は確かに7時を過ぎていた。
盛り塩はさらに黒く変色していた。
その後、恐る恐るドアを開けると、
心配そうな顔をしたじいさん達がいた。
ばあさんは、
「よかった。よかった。」
と涙を流してくれた。
下を降りると、親父も来ていた。
じいさんは
「早く車に乗れ」
と言い、どこから持ってきたのかワンボックスのバンが1台あった。
そして、庭に数人の男たちがいた。
ワンボックスは9人乗りで中列の真ん中に座らされて、
助手席にKさんが座り、庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。
全部で9人乗り込み、自分が八方に囲まれた状態で座らされた。
「大変なことになったな。気になるかもしれんが、
これから目を閉じて下を向いていろ。俺たちには何も見えんが、
お前には見えてしまうだろうからな。
いいと言うまで我慢して目を開けるなよ」
と隣にいた50歳くらいのおじさんに言われた。
そしてじいちゃんの運転する軽トラが先頭、
次が自分が乗っているバン、
うしろに親父が運転する乗用車という車列で走り出した。
車は、かなりゆっくりとした速度で進んだ。
おそらく20キロも出ていなかったように思う。
まもなくKさんが、
「ここがふんばりどころだ」
と言い、念仏を唱え始めた。
「ぼ、ぼ、・・・ぼぼぼ」
またあの声が聞こえ始めた。
Kさんにもらったお札を握り締め、目を閉じ、
下を向いていたが、つい薄目で外を見てしまった。
そこには、白いワンピースが車に合わせて移動してきていた。
頭は窓の外にあって見えない。
しかし、車内を覗き込もうとしたのか、
頭を下げる仕草を始めた。
無意識に
「ひっ。」
っと声が出る。
「見るな」
と隣が声を荒げる。
あまりの怖さに慌てて目を閉じ、
さらに強くお札を握り締めた。
コツ、コツ、コツ。
窓を叩く音がする。
それに合わせて周りに乗っている人も短く
「えっ」
とか
「ゔ、ゔん」
と声を出す。
あれが見えなくても声が聞こえなくても、
音は聞こえてしまうようだ。
Kさんの念仏に力が入る。
やがて、声と音が途切れたと思ったその時。
Kさんが
「うまく抜けた。」
と声をあげた。
それまで黙っていた周りを囲む男たちも
「よかったなぁ」
と安堵の声を出した。
それから車は道の広いところで止まり、
親父の車に移された。
親父の車に移された。
親父とじいさんが他の男たちに頭を下げている時、
kさんが
「お札を見せてみろ」
と近寄ってきた。
お札は全体真っ黒になっていた。
そしてkさんは
「もう大丈夫だと思うが、念のためしばらくこれを持っていなさい。」
と新しいお札をくれた。
その後、親父と2人で自宅に帰った。
帰り道に親父は八尺様のことは知っていたようで、
子供の頃に友達のひとりが魅入られて
命を奪われたということを話してくれた。
また八尺様に魅入られたため、
他の土地に移った人も知っているという。
バンに乗った男たちは、
すべてじいさんの一族に関係がある人だという。
つまり薄いながらも自分と血縁関係にある人たちだそうだ。
前を走ったじいさん、後ろを走った親父も当然血の繋がりがあり、
少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。
親父の兄弟は一晩でこちらに来られなかったため、
血縁は薄くてもすぐに集まる人たちに来てもらったようだ。
さすがに今すぐに7人もの男が集まれるというわけにもいかなく、
また夜より昼のほうが安全と思われたため、
一晩部屋に閉じ込められたのである。
最悪、じいさんか親父が身代わりになる覚悟だったという。
それから、もうあそこには行かないようにと念を押された。
家に戻ってから、じいさんと電話で話したとき、
あの夜に声をかけてくれたかと聞いたが、
「そんなことするはずがない」
と断言された。
バイクはじいさんと近所の人が届けに来てくれた。
この話には後日談がある。
八尺様を封じている地蔵様が誰かに壊されてしまったという。
それも、自分の家へ通じる道の地蔵だそうだ。
今となっては、迷信だろうと自分に言い聞かせつつ、
心配しながら過ごしている。
あの
「ぼぼぼ・・・」
という声がまた聞こえたらと思うと・・・
みの怖書店員
怖い話が大好きで、つい夜遅くまで読み漁ってしまう夜ふかし系女子。 読むだけでは満足出来なくて、最近ホラーオーディオを聴きながら執筆する ホラージャンキーになりつつある。夜中のサブスク時間が大好き。
みの怖書店員
八尺様はネットで有名な怪談ですね。 八尺という事で約240cmの高身長の方みたいですね。
みの怖書店
アルバイト
240cmの高身長かー。 身長だけならバレーボール選手やバスケット選手にとって逸材だよね。
みの怖書店員
たしかにアタックもシュートもやり易いでしょうね。
みの怖書店
アルバイト
でしょー。きっとブロックなんて鉄壁だよ。
みの怖書店員
そういえば、世界で八尺様よりも身長の高い男性がいるみたいですよ。 251cmだとか。
みの怖書店
アルバイト
えっ!?八尺様より大きい男性っているんだ! 八尺様って日本だと身長が高すぎて不気味だけど、 海外だといたって普通に見えるかもしれないんだね。
みの怖書店員
世界は広いですね。八尺様のパートナーも世界のどこかにいるかもしれないですね。